人材紹介の仕事をしていると、「転職を勧めること」が私の仕事だと思われることがあります。
もちろん、新しい機会をご紹介することは大切な仕事の一つです。
ただ、実際には少し違います。
私が候補者の方にお伝えするアドバイスの中で、時には
「今は動かない方がいいと思います」
というものもあります。
約1年半ほど前、ある候補者の方から相談を受けました。
社内で新しいポジションに異動したばかりで、仕事内容そのものは面白く、新しいチャレンジもありました。しかし、上司との関係がうまくいかず、大きなストレスを感じていたのです。
その会社で15年近く働いてきた方でしたが、その頃は会社そのものに対しても不満を感じ始め、「転職した方がいいのではないか」と考えていました。
実は当時、私が担当していた案件の中には、その方に非常によく合うポジションもいくつかありました。
それでも話を重ねるうちに感じたのは、長期的なキャリアを考えているというよりも、目の前の状況への失望感から判断しようとしているということでした。
それまでのキャリアには満足していましたし、一緒に働く仲間も好きでした。会社の商品や事業にも共感を持っていました。
問題は会社そのものではなく、あくまで現在置かれている状況だったのです。
私がお伝えしたのは、とてもシンプルなことでした。
少し立ち止まって考えてみること。
社内で解決できる方法がないか探してみること。
上司以外のマネジメント層とも話してみること。
そして、「転職だけが解決策ではない」と考えてみること。
数日後、その方から再び連絡がありました。
会社側が状況を理解し、別の事業部への異動の機会を提案してくれたそうです。
そして約1年後、再び近況を聞く機会がありました。
新しい環境で充実した日々を送り、「あの時すぐに転職しなくて良かった」と話してくれました。
一方で、私は逆のケースも日々目にしています。
候補者の方に新しい機会をご紹介する際、「この方にとってプラスになる可能性が高い」と感じることは少なくありません。
しかし現在の状況についてお聞きすると、こんなお話を伺うことがあります。
「子どもがまだ小さく、今の会社は柔軟な働き方ができるので家族との時間を大切にできています。」
「社内の育成プログラムに参加していて、もう少し経験を積みたいと思っています。」
「上司やチームとの関係がとても良好です。」
「周囲の人にも恵まれていて、会社も自分の成長に投資してくれています。」
そんな時、私のアドバイスは同じです。
無理に転職する必要はないと思います。
今の環境に満足していて、成長もできているのであれば、単に新しい求人があるという理由だけで動く必要はありません。
また半年後くらいに状況を聞かせてください。
そうお伝えすることもよくあります。
長年この仕事をしていて感じるのは、多くの人が市場にある選択肢だけを比較してしまうということです。
しかし、今の会社に残ることも一つの選択肢です。
キャリアアップの機会があるかもしれません。
良い上司やチームに恵まれているかもしれません。
ワークライフバランスを実現できているかもしれません。
家族との時間を確保できているかもしれません。
社内異動や新しい挑戦の機会があるかもしれません。
長期的な安定を得られているかもしれません。
こうした要素にも、確かな価値があります。
もちろん、転職が正しい選択になることもあります。
新しい環境に挑戦するべきタイミングもあります。
ただし、会社に残ることも、単なる現状維持ではなく「自分で選ぶ判断」であるべきだと思います。
同じように、転職も一時的な不満ではなく、長期的な目標に基づいて決めるべきです。
今後、魅力的な求人や新しい機会に出会った時は、ぜひ今の環境についても改めて考えてみてください。
今の会社は、本当に自分が求めているものを与えてくれていないでしょうか。
時には、「動かない」という選択が、最良のキャリア判断になることもあるのです。